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東部森林/ハニーヤード

誰かが眠りに就くころ

Nothing could be easier

BACKGROUND STORY

『私の夜の過ごし方』

 いつの頃からか忘れてしまったが、私はいわゆる「夜型人間」になってしまったようだ。好きなことを好きなだけやるのは、夜に限る。雑音もなく静かで集中するのには最適だし、急な来客が現れることもない。だから、普通の人が目を覚ます時間になっても私はまだ当たり前のように活動している。就寝の時刻はとくに決めてはいないが、暗くなる前にベッドに入る。太陽の光は遮光性の高いカーテンを閉めればいいし、さらに玄関の鍵をかけてしまえば、誰か訪ねてきても留守だと思って立ち去ってくれる。

 そういうわけで、暗い夜道を散歩するということもよくある。夜の森はまた心地よいもので、虫が羽を震わせる音や木々の枝を揺らす風を感じられる。外に出ること自体には目的はとくに無いが、それが非常に有意義で、かつ贅沢な時間の使い方であるという錯覚に陥らせ、満足する。私は決まった職には就いておらず、古くからの知り合いからとある仕事を頼まれたときにだけ汗を流すという日々を送っている。それが、たまたま特殊な技術なので時間の割に良い稼ぎになり、今のところ生活には困っていない。

 ただ、不意に「今のままでいいのだろうか?」と漠然とした不安に襲われる瞬間もある。同じ年代の友人たちには、家族を持ったり、あるいは社会的に高い地位に就いた者もいる。そういうときは「いや、他人と比べても仕方ないだろう」と言い聞かせることで大抵落ち着き、またいつも通りの日常に戻る、ということを繰り返す。ところが、年を重ねるにつれその循環のスピードは増してきたように思える。これが世にいう【焦り】というものなのか?

 本当は今夜もあてのない小旅行に出かける予定にしていたが、たまには周りのリズムに合わせて早く眠りに就くことにしてみよう。おそらく、なかなか寝付けないだろうけれど。カーテンを開けるのを忘れずに。久しぶりに朝陽に起こしてもらうのだ。