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東部森林/花蜜桟橋

使い古された言葉を、今日だけは信じて

There is no fog that doesn't clear

BACKGROUND STORY

『目の前の霧はいつか晴れる』

 私は忘れっぽい性質なので、何か良いアイデアを思いついたらすぐに書き留めておく癖があるんです。だから、書くものは常に持ち歩いています。でも大事なのはそこではありません。書き留めたものを、あとからもう一度よく見直すということです。人は常に考え方や気分が変わってしまう生き物ですから、今日良いと思ったことでも、明日になると実は大したことではなかったりします。反対に、時間を置いても良いと思えた場合は、確信を持っていいという判断材料になります。つまり、思いついたことはすぐに実行せずに、ちゃんと見極める必要があるということです。人によってはそれは消極的だと捉えるかもしれませんが、私はそういうふうに今までやってきましたし、これからも変えるつもりはありません。

 でも、大きな失敗をしてしまった経験もあります。そのときは書いた紙をなくしてしまったことにすぐ気づいたのですが、書き留めたというだけで安心してしまったんでしょうね。全然重要な内容じゃないだろうと思い込んでいたのですが、それから結構な月日が経ったあとに、部屋の掃除をしているときにその紙を見つけてしまったんです。ええ、それはそれはものすごく大事なことが書かれていました。まあ、時すでに遅し、だったんですが。だから、私のようにメモを取っておくのも良いことではありますが、あまりにそれに頼りすぎて慣れてしまうと自分の力では憶えようとしなくなるみたいなんです。もともと忘れっぽいのに、余計に記憶力が低下してしまうというか。

 今日の森のように濃い霧の中を、一生懸命地図を見ながら歩いても目的地にはなかなかたどり着けないんです。地図を見ることに慣れてしまった人ならなおさら。ふだんから自分の目、耳、足を使って、この森のどこに何があるのかを把握しながら歩くようにしている人なら容易いことなんですが。